国同士のちっぽけな戦争と国境を超えた大きな愛|「ロシアよ、わが名を記憶せよ」八木荘司 著

歴史小説
つれづれ
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こんにちは、つれづれ(@periodnovels)です。このブログでは、実在の人物や出来事を元にした小説を紹介しています。

今回ご紹介する小説は、八木荘司 著「ロシアよ、わが名を記憶せよ」
描かれる人物は…明治維新後の日本で初めて軍神とされた廣瀬 武夫(1868-1904)」
本作のテーマを一言にまとめると…

国と国が争う戦争の無常と、国を超えて結びつく人の愛

万死あっても、あなたは帰って来なければならない。廣瀬武夫、その一生があってこそ、日露の未来があるということを忘れないでください

八木荘司 著「ロシアよ、わが名を記憶せよ」P208

むなしく響く戦争の無常。一方で、国の境など簡単に超えて育まれる愛。感染症や戦争で分断される現代だからこそ、胸に温かくも重く響いてくる作品です

おすすめポイントの前に…あらすじを

ロシアへ留学中の帝国海軍軍人 廣瀬武夫は、ロシア人のアリアヅナと恋に落ちる。二人の恋は順調に育まれてゆくが、反して二人の祖国の関係は坂を転がるように悪化していく。廣瀬に帰国命令が下り、アリアヅナとの最後の夜を過ごしたのち、日露は戦争を開始。廣瀬が、死を覚悟した旅順港閉塞作戦の前に、後輩の加藤へ託した1通の手紙とは―。明治日本の戦争と平和を願った知られざる愛を描きます。

廣瀬武夫はこんな人

✓生真面目で少し不器用。されど愛は真っすぐに
※作中で描かれる人物像です。

社交場では自分からうまく話せなかったり、善意で話してくれるロシア人に対して騙すように情報を引き出すことはできないなど、作中の廣瀬武夫は、とにかく生真面目で不器用です。

しかし、恋仲となるアリアヅナと出会うと、彼の想いは真っすぐに突き進んでいきます。本作の中盤、アリアヅナとの別れのシーンにて、彼は生真面目に「生きていられるか分からない」と伝えます。安心させる言葉を言えばよいのにと思ってしまいますが、不器用ながらも生真面目に、伝えるべきことは伝えるという廣瀬の信念を感じ取れます。

おすすめポイント・読みどころ

アリアヅナが待っているにも関わらず、なぜ無謀な旅順港閉塞作戦へ参加したのか

本作の終盤、日露戦争で打開策が見えない中、日本は無謀にもロシアの軍艦が停泊する旅順港から軍艦を出させないよう、港の出入り口に船を沈めることで出入りを封じる作戦を取ります。
しかしこの作戦は危険すぎたために、兵の志願を募る形で遂行されることとなります。この時、廣瀬は何を思ったのか、この作戦に志願します。しかも、この作戦の一度目は万死に一生を拾ったにも関わらず、二度目の作戦にも志願します。

なぜ、廣瀬武夫は旅順閉塞作戦に志願したのか。それは作中では完全に説明されることは触れられることはありません。ただ、アリアヅナとの仲を知り、ロシア留学に同行した加藤寛治との会話で印象的なシーンがあります。

加藤「廣瀬さんはどうなんですか、閉塞に賛成ですか」
廣瀬「反対だな」
加藤「そうでしょう。水雷屋としても、海上でみごと敵艦を仕留めたいでしょう」
廣瀬「いや、そういう意味ではない」
加藤「じゃあ、どういう意味ですか」
廣瀬「行って帰れぬ水兵が、かわいそうじゃないか」

八木荘司 著「ロシアよ、わが名を記憶せよ」P208

廣瀬は生真面目で不器用と紹介しましたが、まさにその性格が表れているのではないかと思います。

彼が死を覚悟したこの作戦において、廣瀬が遺したアリアヅナへの手紙と「親愛なるロシアの水兵たちよ」から始まる銘文。国と国の関係は戦争に陥りながらも、決してそこに属する個人としての人間に対する尊敬や想いを失わなかった廣瀬武夫の生涯を味わえる作品です。

関連する作品

✓日露戦争が舞台となった作品

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あとがき

本作は日露戦争を謡とした作品ですが、今まさにロシアがウクライナへ侵攻をしており、この作品と同じようなこと現代でもが起こっているのではないかと思います。

戦争の無常さだけでなく、命の重みを感じ、平和な今の時代を生きる我々にも”今”を大切に生きようと思わせてくれる作品です。

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