伊達の名を天下に押し上げた女たち |「伊達女」佐藤巖太郎著

歴史小説
つれづれ
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つれづれ(@periodnovels)です。「日々のおともに手に汗握るもう一つの人生を」をテーマに、実在した人物・出来事をベースとした小説をご紹介しています。

現代では「格好のよさで人目を引く女。 いきな女。」という意味で使われる「伊達女」。

今回ご紹介する小説は、言葉通りのタイトル「伊達女」佐藤巖太郎著。独眼竜の異名で知られる伊達政宗を取り巻く5人の伊達女たちを描いた連作短編集です。

男性が主体の時代、「家(実家・嫁ぎ先)」に人生を絡めとられ、裏方として生きた5人の女たちは、自身の生涯を犠牲にしてまでも、伊達の名を天下に押し上げることを選んだ。”伊達女”と呼ばれるに相応しい伊達家の女たちの生き様とは。

「伊達女」はどんな本?

✓読みやすさ ★★★★

文庫289ページと比較的短いうえに、短編は歴史の時間軸と同様に進むため、とても読みやすい作品です。ただし、視点人物は歴史の表舞台に立たない女性であり、その雰囲気を壊さないためか、政治の動き自体にはあまり焦点が当てられません。表舞台に立てない女性のもどかしさを痛感する一方、間を埋める歴史知識があった方がより奥行きを楽しめるかな…という側面もある作品です。他方、本作のテーマはとても分かりやすく、家に捉われる女たちがどう生きたのかを綴る物語。それぞれの短編で描かれる女性たちの生き様に、心が揺さぶられること間違いなしの一作です。

✓あらすじ

心に鬼を棲まわせた“独眼竜”にして奥州の覇者、伊達政宗。数多の武将から恐れられ、後世にもその名を残した男の周囲には、たくましく、そしてたおやかな女性たちがいた――。 我が子に毒を盛ったとされる母・義姫、影ながら政宗を支え続けた妻・愛姫、片倉小十郎の姉で政宗を育てた喜多、松平忠輝に嫁いだ娘・五郎八姫、真田信繁(幸村)の娘・阿梅……戦国の世を凜と生き抜く伊達の女たちを主人公にした連作短編集。

佐藤巖太郎 著「伊達女」あらすじより

「5人の伊達女」はどんな人?

作中で登場する5名の女たちは以下の通り。比較的有名なのは、政宗毒殺未遂説のある母:義姫、徳川家と伊達家の縁を繋いだ五郎八姫あたりでしょうか。いずれも伊達家の名を天下に押し上げた女性たちです。簡単に5名をご紹介します。

①義姫(政宗の母 1547-1623)
政宗のライバルでもある最上義光の妹。生涯で2度も戦場に出向いて戦を仲裁をしたり、政宗毒殺未遂など、戦国時代の女性像を体現する豪気に生きた女性です。

②愛姫(政宗の妻 1568-1653)
伊達家に滅ぼされた田村家の娘で、一時は夫婦仲が悪かったとも。豊臣政権下では伊達家の外交官を務めるとともに、生家:田村家の再興を願い続けるなど、家を守り抜いた女性です。

③片倉喜多(政宗の養育係 1538-1610)
政宗の右腕:片倉景綱の姉にあたり、養育係として政宗の人格形成に大きな影響を与えた人物です。生涯独身を貫き、伊達家の奥向きを治めた人物です。

④五郎八姫(政宗の長女 1594-1661)
愛姫の長女で、徳川家康の6男:松平忠輝に嫁いだ女性です。「五郎八が男児であれば」と嘆かせたほど聡明な女性で、弟で2代藩主にあたる伊達忠宗も頼りにした人物です。

⑤真田阿梅(政宗の家臣:片倉重綱 継室 1599-1604)
真田幸村の3女で、片倉景綱の嫡男:重綱の側室。日の本一の兵として知られた真田幸村の血を後世に繋ぐため、縁もゆかりもない白石の地で生き抜いた人物です。

おすすめポイント・読書体験

伊達女が示す戦国に生きた女の生き様

戦国時代。それは武力のある「男性」が主役の時代であり、女性は世継ぎを産むことが仕事とされた時代。つまり、女性たちはいわゆる裏方として生きることを強いられた時代でした。結婚前は実家に、結婚後は嫁ぎ先の家に縛られる道しか歩むことしかできない人生でした。

しかしながら、そんな引かれたレールから信念をもって一歩踏み出した女性たちが、今作の「伊達女」です。母として、妻として、娘として、何よりも女性として。時代が求める女性のあるべき姿に想い煩わされ、されども心のうちから燃え上がる自身の想いとの狭間で葛藤する伊達家の女たち

なぜ彼女たちは、自身の名を、人生を犠牲にしてまでも、伊達の名を天下に押し上げることを選んだのか。

清々しいまでに粋な生き様を示した伊達家の女たちの姿から、男女関係なく、生きる意味を問い、自身の生き方を奮い立たせてくれる作品です。

「私は優しくなどありませぬ。父・政宗を気に掛ける母を見て育ちましたゆえ、常に伊達家の行く末ばかり考えております。勘当された殿について行くことは、伊達家のためになりませぬ」

佐藤巖太郎 著「伊達女」P217

あとがき

本作は女性としての生き方を描いた物語ながら、ある意味で伊達政宗を家族の視点で描いた物語でもあります。気性の粗さ・頭のまわる機転の利く人物としてのイメージが強い政宗ですが、こうした人格がどのように形成され、そして維持されたのかも、同じく見どころの一つです。

同様に戦国時代を生き抜いた女性、かつ家族の視点から戦国武将を描く物語としては、同時代の天下人 徳川家康を取り巻く9名の女性の視点から描く 植松三十里 著「家康を愛した女たち」 がおすすめ。家康はなぜ天下人を目指したのか、そして家族は家康をどう見たのか。ネタバレ厳禁でおすすめポイントを紹介していますので、ぜひのぞいていってください。

また、本作最後の章:鬼封じの光で描かれる「真田阿梅」と夫:片倉重綱を描いた作品 伊藤清美著「幸村のむすめ」もご紹介しています。本作の次に読む作品としておすすめの一作です。

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