こんにちは、つれづれ(@periodnovels)です。
このブログは「日々のおともに手に汗握るもう一つの人生を」をテーマに、実在した人物をベースとした小説をご紹介しています。
今回ご紹介する小説は、近衛龍春 著「毛利は残った」
描かれる人物は、「毛利輝元(1553ー1624)」
本作を一言にまとめると…
呑気な二代目による毛利家立て直しプロジェクト
毛利を潰さんとの画策であろうが、こうなれば、絶対に生き残ってみせる。石に齧り付いても絶対に毛利は潰さん。それが、儂にできる唯一の戦いじゃ。追い詰められた武士の意地と力を見せつけてくれる。
近衛龍春 著「毛利は残った」P215
「毛利は残った」はどんな本?
✓あらすじ
三本の矢で有名な「毛利元就」の孫にあたる毛利輝元を主人公に、関ケ原の戦いに敗北後、過酷な処分を受けた毛利家の立て直しを描きます。所領が4分の1になった毛利家にのしかかる借金の嵐、家臣同士の不和に江戸幕府からの嫌がらせのような命令。歴史小説としては珍しいお家建て直しの物語です。
✓舞台
天下分け目の合戦「関ケ原の戦い」から江戸時代初期にあたる1600年~1616年の時代が舞台です。地名としては、前半は大坂(大阪府大阪市)・伏見(京都府京都市)、後半は現在の山口県萩市が中心です。萩焼などの名産品も登場し、現在の萩市の礎ができるまでも見どころの一つです。
✓気軽に読める度:★★★★☆
文庫版430ページ程度と読みやすい分量、かつ歴史的な出来事の解説も豊富で読みやすい作品です。一方で、史実を丁寧に追っていることもあり、一度しか出てこない人物にも史実に沿った人名が振られています。生身の人間が歴史を動かしてきたことが改めて胸に染みる一方、この人誰だっけ?と少し迷子になるときも…。どちらかというと、歴史小説に慣れている方の方が読みやすいかもしれません。
「毛利輝元」はこんな人
毛利輝元は、三本の矢で有名な「毛利元就」の孫であり、関ケ原の戦いで徳川家康の敵にあたる西軍総大将を務めた人物です。

1553年に安芸国(現:広島県)で生まれた輝元は、祖父 毛利元就のこうけんを受けて成長します。祖父 元就の死後は、織田信長との争いを繰り広げた安土時代、豊臣秀吉による桃山時代と時代は進んでいきますが、優秀な叔父 小早川隆景の後見を受けながら、大国”毛利家”を運営。豊臣秀吉による桃山時代では、政権内でトップ5に入るほどの権勢を誇ったとか。こうして叔父の手厚いサポートを受け地位を築いた輝元でしたが、秀吉の死により世は再び乱世に。この時、叔父も亡くなっていました。
急に乱世に放り出された毛利家2代目の輝元はこのころ48歳。
「毛利は残った」では、ここから物語は始まります。
関ケ原の戦いで敗北した毛利家の所領(収入)は4分の1になったうえに、多額の借金、過酷な徴税に対する農民の一揆、家臣同士の不和に江戸幕府からの嫌がらせのような命令など、毛利家の立て直しに向けた課題は山積……
こうした課題に、叔父のサポートのない毛利輝元はどのようにリーダーシップを発揮しながら対処したのか。260年後、江戸幕府を倒すこととなる西国雄藩の一つ、長州藩の初期の苦闘を背負った人物です。
ちなみに、作品上は「呑気な二代目」として描かれますが、輝元は秀吉が亡くなる数年前から「輝元出頭人」という体制を築き、家柄・出身に捉われない能力による人材登用を行っていたようです。必ずしも”呑気”ではなく、輝元なりに世に合う運営を試みた先見の明ある人物だったのかもしれません。
おすすめポイント・読書体験
お家立て直しのため、50歳にして考え方を柔軟に変えていく輝元の姿
本作前半で描かれる輝元は、優柔不断・現実逃避の癖がある人物です。いざというときに、決断を先延ばし、苦しいときに思考停止してしまうなど、当主としてとにかく情けない。
しかし、関ケ原の戦いに敗れた毛利家は存亡の危機を迎えます。前項に記載した山のような課題を解決すべく、輝元は少しずつ変わっていきます。家臣のモチベーションマネジメント・家臣同士の不和を仲立ちするチームビルディング・人材不足の中での適材適所・名産品による経済振興など…本作で輝元が手掛けた施策は多岐にわたります。
このように、輝元はおよそ50歳にも達しながら長州藩・毛利家を保つため、考え方を柔軟に変え、学びを止めずに、強いリーダーシップで改革を進めていきます。毛利輝元の生き様から、たとえ何歳になっても人は変われるということが、改めて身に染みる作品です。
あとがき
本作前半の輝元は、叔父の手厚いサポートや重臣との合議制の形式により、よくも悪くも何もしなくても問題ありませんでした。しかし、お家存亡の危機に至り、改めて当主”輝元”の力が必要となりました。
山積する課題はあれど、激動の後半生は働き甲斐のある日々でもあったようと思います。何歳からでも変われはするが、自分自身のモチベーションマネジメントの重要性も改めて気付くことのできる作品です。