人から人へ伝播してゆく生きる熱 |「熱源」川越宗一 著

歴史小説
つれづれ
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こんにちは、つれづれ(@periodnovels)です。このブログでは、実在した人物や出来事を題材にした小説を紹介しています。

今回は、川越宗一 著「熱源」。今回描かれる人物は2名。
樺太アイヌに教育が必要と説いた自身も樺太アイヌである「山辺安之助/ヤヨマネクフ(1867-1923)」
祖国をロシアに飲み込まれサハリン(樺太)で再び生きる熱を帯びた「ブロニスワフ・ピオトル・ピウスツキ(1866-1918)」
本作のテーマを一言で言うと…

たとえ世界が否定しても、生き方を自らの手で決めた誇りある人々

強いも弱いも、優れるも劣るもない。生まれたから、生きていくのだ。すべてを引き受け、あるいは補いあって。生まれたのだから、生きていいはずだ。

川越宗一 著「熱源」P424

凍てつく島に迫りくる2つの国はアイヌが求めていない文明を押し付けた。明治維新から第二次世界大戦終了までの約70年間の南樺太を舞台に、自らの生き方を自分たちの手で決めた誇りある人々を描く大作です。

おすすめポイントの前に…あらすじを

本作は樺太(サハリン)で生きたアイヌ民族を中心に、明治維新から第二次世界大戦終了まで約70年間にわたる時代を舞台とした作品です。主人公の2人はいずれも「文明」という大きな力により故郷を失いながら、生きる「熱」を人から受け継ぐことで、自らの生き方を貫いていきます。故郷や文化を失いかけ、弱肉強食の世界で彼ら2人がたどり着いたそれぞれの答えとは――。

こんなかたにおすすめ

✓ ついつい周りに流されてしまう生き方を”嫌々”選んでしまう
✓ 周囲の能力ある人を見て、私は平凡だからと鬱屈してしまう

本作では、勝手に世界から開拓すべき野蛮人と見なされ、滅びゆく民とまで呼ばれたアイヌ民族にフォーカスをあてながらも、決して彼らに同情するわけでもなく、彼らが選んだ生き方を、熱を淡々と描き出す作品です。
「周り流されてしまう自分が嫌だなー」「あいつは凄いからと鬱屈してしまう」こう思ってしまう方へ、自分らしく生きる熱を分けてくれる作品です。

おすすめポイント・読みどころ

樺太のアイヌ「山辺安之助(ヤヨマネクフ)」が見出した答え

ロシアと日本の大国に文明化を迫られる樺太のアイヌとして育ったヤヨマネクフは、明治維新で理不尽な境遇に追いやられた元武士たちや樺太からの移民アイヌたちと共に北海道で育ちます。その後、亡妻の願いを胸に故郷”樺太”へ帰還。しかし、当時ロシア領であった樺太は自分の知る姿ではありませんでした。
そんな中、自分たちへ理不尽な文明を与えた日ロ両国による戦争。ロシアに祖国を奪われたピウスツキとの出会いを経て、アイヌのために何ができるかをヤヨマネクフなりに行動に移していくのです。

本作の終盤で、大隈重信に「弱肉強食の世界できみたちはどう生きるのか?」と問われます。

北海道でアイヌの人口がすり減らされ、樺太で故郷が故郷で亡くなるのを目の当たりにし、アイヌの名を残そうとした南極探検隊も失敗に終わった。そんなヤヨマネクフが最後にたどり着いた答えとは。ぜひ本作でお楽しみください。

もしあなたと私たちの子孫が出会うことがあれば、それがこの場にいる私たちの出会いのような幸せなものでありますように。そして、あなたと私たちの子孫が歩む道が、ずっと続くものでありますように

川越宗一 著「熱源」P283

ブロニスワフ・ピオトル・ピウスツキが見出した答え

生まれる前にロシアに祖国ポーランドを奪われたピウスツキは、加熱する学生運動に手を貸した罪でサハリン(樺太:ロシアでの呼称)へ流されます。希望を見失ったピウスツキに再び熱を与えてくれたのは、サハリンに住むアイヌやオロッコといった先住民たちでした。
白人種こそ世界で最も進化した人種であり、他の人種を支配し導く必要があると大真面目に考えられていた時代。樺太の先住民たちへ文明を押し付けるロシアに憤りを感じながら、アイヌ民族のために時に無力感に苛まれながら、様々な行動を起こしていきます。

そんな中、日露戦争でのロシア敗戦により、ピウスツキの弟ユゼフは祖国復活のために過激な行動を始めます。サハリンでアイヌ達の優しさに触れた彼の目に、過激な武力活動はどう映ったのか。そして、彼もまた大隈重信に「弱肉強食の世界できみたちはどう生きるのか?」と問われます。祖国ポーランド、第二の故郷であるサハリン。ピウスツキが辿り着いた一つの戦い方とは。

我々が掲げる文明など、所詮その程度なのです。暗闇を照らす光を装って隣人たちの営みを灼いている。我々が達した発展段階とは、そんな自らの行いに対する想像力も働かないくらいのものでしかない。

川越宗一 著「熱源」P186

あとがき

主人公のヤヨマネクフとピウスツキや周囲の人々は、人によって生じた熱をそのままにせず、まるで火を灯すかのように、自分たちの子孫や未来のために、自らの行動を持って伝播させていきます
「たとえ世界が否定しようとも、自分の生き方は自分で決める」。そんな強い人の意思と熱を感じる作品です。

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