名を遂げ過ぎた不発の天才|「ねなしぐさ 平賀源内の殺人」乾緑郎 著

歴史小説
つれづれ
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こんにちは、つれづれ(@periodnovels)です。このブログでは、実在した人物や出来事を題材にした紹介を紹介しています。

今回は、乾緑郎 著「ねなしぐさ 平賀源内の殺人」
描かれる人物は、江戸時代に活躍した才人・発明家「平賀源内(1728-1780)」。
本作のテーマを一言で言うと…

他人からの評価と自身の才能へのプライドの狭間でもがいた器用貧乏の一生

遠き先の世で、源内さんはどんなふうに語られるのだろう。
まさかエレキテルの源内では、あまりにも哀しすぎる。

乾緑郎 著「ねなしぐさ 平賀源内の殺人」246

エレキテルの発明で教科書で一度は見たことのある平賀源内。時に”天才”と称された彼は、その晩年に殺人により獄死する。天才か、凡人か、もしくは殺人を犯した犯罪者か。稀代の天才の人間味ある懊悩に迫ります。

おすすめポイントの前に…あらすじを

身分は侍、本業は本草学者。医学や蘭学、鉱物の知識にも明るく、戯作者、発明家といったよろずの才を持つ平賀源内。ある朝、彼が自宅で目を覚ますと、部屋には男の亡骸が転がっていた。知らせを受けて駆けつけた杉田玄白の前には、脇差を手に持ち、茫然自失とする源内の姿があり、記憶がないとただ首を振るばかり……。稀代の天才の身にいったい何があったのか。その非業の死の謎に迫る!
(文庫版:あらすじより)

こんなかたにおすすめ

平賀源内は天才でありながら、誇れる業績・功がないという一般人が抱える悩みを生涯にわたって持ち続けながら、その生涯を閉じていきます。しかしながら、源内が晩年に抱く想いは、不思議なほどに爽やかなのは、源内なりの生き様を見つけたからなのでしょう。
「自分の成果と他人の成果を比べてしまう」「自分の人生はこんなはずじゃなかったのに…」
誰もがそんなことを考えてしまいますが、そうした考えを否定せずに勇気づけられる作品です。

おすすめポイント・読みどころ

“天才”平賀源内の懊悩

平賀源内と言えば、エレキテルの発明をした天才。そんなイメージですが、この作品では江戸中で多芸多才と褒めそやされながら、成し遂げたことたことなど何もないと懊悩する姿が描かれます。源内は誰よりも器用でありながら、誰よりも継続する力が乏しかったのでしょうか、陶手が中途半端に終わっていきます。周囲の人間がある種の熱意と勤勉さで世に残る仕事を成し遂げる中、何もない実績と人から評価の狭間で懊悩していきます。

そんな源内を多芸多才と褒めそやし、天才だと持ち上げる世間の声もある。だが、もしかすると己は、このまま何者にもなれずに生涯を終えていくのかもしれぬという恐怖が源内にはあった。

乾緑郎 著「ねなしぐさ 平賀源内の殺人」P114

しかし、本作のラストシーン、彼が人生の最後に行きついたものは、意外なほどに爽やかであった。源内が己の生涯を振り返り、たどり着いた結末はいかに――。

平賀源内 殺人容疑の謎解きミステリー

大工の棟梁2人を殺傷した罪で労に入れられ獄死――。
これが歴史上の源内の晩年ですが、遺体が引き渡されなかったこともあり、実は生きていたのではないかという風説も。本作は、当日の権力者 田沼意次のほか、親交のあった杉田玄白・工藤平助などを通じて、源内の死の謎に迫ります。第2章から始まる謎解きストーリーは、点と点が繋がってゆく展開で、一気読み必至です。

杉田玄白・前野良沢・田沼意次らの仕事の流儀

本作は本編約250Pと少ないながらも、源内以外の登場人物たちの個性が立っています。「解体新書」の翻訳に携わった前野良沢・杉田玄白や、武家では最下層の身分から江戸幕府で比類なき権勢を誇った田沼意次らの仕事の流儀も、本作で楽しめるポイントの一つです。

前野良沢
「私は世に廃れようとするものは習い覚えて残し、人が捨てて顧みなくなったことこそ為して残すことが世のためだと教えられて育った。私は名を残すこと興味がないのだ。どうせ人は死ぬ。名も消える。だが、成した仕事は残り、後世に伝えられる」

田沼意次
「身共は贈られたものは受け取る主義だ。だがそれで斟酌することはない。その者の器に合ったところに配置する。ただそれだけのことだ」

乾緑郎 著「ねなしぐさ 平賀源内の殺人」P158、224

あとがき

「あのような天才は誰も手放したくないのさ」作中で杉田玄白はこのように語ります。天才ではあるものの、最後まで運に恵まれず、しかも殺人者の汚名を背負い…。それでも最期は爽やかに世を去った平賀源内。能力・才能はあったとしても、必ずしも報われない現代社会を少し明るく、勇気づけてくれるような気がします。

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