女の関ケ原を戦い抜いた強く凛々しい女性|「家康の養女 満天姫の戦い」古川 智映子

歴史小説

こんにちは、つれづれ(@periodnovels)です。
このブログは「日々のおともに手に汗握るもう一つの人生を」をテーマに、実在した人物をベースとした小説をご紹介しています。

今回ご紹介する小説は、古川 智映子 著「家康の養女 満天姫の戦い」
描かれる人物は、徳川家康の姪であり津軽・弘前の地へ嫁いだ「満天姫(1589?-1638)

本作を一言にまとめると…

妻として、母として、天下人の養女として、幾多の困難を越え、津軽藩の礎を築いた女性

弘前城は、永久にてございます。津軽藩は、弥栄にてございます。
ただ一つ、心が残りますのは……

古川 智映子著 「家康の養女 満天姫の戦い」P321

※以下、津軽藩に呼称を統一しますが、弘前藩と同義です。

「家康の養女 満天姫の戦い」はどんな本?

✓あらすじ
津軽藩藩主 津軽信枚の正室として嫁いだ徳川家康の姪にあたる満天姫(浅姫)を主人公に、津軽藩黎明期を描く作品です。妻として、母として、天下人徳川家康に連なる者として、満天姫は幾多の困難を乗り越え、いかにして津軽の女になったのか。権力者側の人間ながら、江戸時代初期にたくましく生きた女性を描きます。

✓舞台:1600年代前半の津軽地方
戦国時代末期から江戸時代初期にかけての津軽地方(青森県西部)を舞台とする作品です。東北地方を舞台としているためか、風花(降り積もった雪が風によって飛ばされ小雪がちらつく現象)などの印象的な風景描写がよく出てきます。また、中心となる弘前城は東北地方唯一の現存天守閣であり、現代においても桜の名所としても非常に有名です。

✓気軽に読める度:★★★★★
時系列で進んでいき、かつ主要な登場人物が限られているので、非常に読みやすい作品です。また、歴史小説特有の時代言葉や、方言も少ないため、スラスラと読める作品です。

「満天姫(浅姫・葉縦院)」はこんな人

満天姫は、よくもわるくも政治に振り回されてきた女性です。

戦国時代の終焉間近の1589年に徳川家康の姪として生まれた満天姫は、10歳のころ、養父家康の天下取りのため、豊臣恩顧の武将 福島正則の養嗣子「福島正之」に嫁ぎます。しかし、義父:正則と夫:正之との確執により、嫁いだ数年後には正之と死別。幼い男児を抱えて満天姫は津軽に嫁ぎます。津軽に行けば、夫:津軽信枚の側室として待っていたのは関ケ原で敗軍となった西軍 石田三成の娘 辰姫(大舘御前とも)。

なんとも、天を仰がざるを得ないような、政治に振り回される人生です。
しかし、満天姫は夫:津軽信枚に、津軽の民たちに、津軽の女として認められるため、妻として・母として・天下人徳川家康の養女として、努めて明るく困難を乗り越えていきます。

養父徳川家康の死、前の婚家 福島家の没落、扱い難い津軽藩の女中、そして信枚の死。多くの困難を乗り越えた先に、どうしても満天姫の心残りとなってしまったものとは。

満天姫

おすすめポイント

一本気の通った満天姫の行動力

満天姫が嫁いだ津軽藩では、実に様々なトラブルや困難が発生します。津軽のしきたりに固執する女中、夫:信枚の男色、石田三成の娘でもある側室、津軽藩の転封騒動に飢饉、はたまた満天姫が来る前にいた正室の存在、そして前夫との子、直秀。

個人的に印象的なのは飢饉発生時の満天姫の行動力です。凶作により飢餓に見舞われる民の噂を聞きつけるや、実際に民を見に行きます。現実を目の当たりにした後、城の蔵にある米を配ろうとする満天姫ですが、ここに手強い女中:松前が壁となった立ちふさがります。
江戸にいる藩主の許可を得ないことには米は使えないと語る松前や重臣たちを前に、満天姫はこう語ります。目の前にいる人の命をを大切にしようとする満天姫の言葉と行動力に、圧巻するシーンです。

掟、掟というが、掟は人を守ってこそ生きるものじゃ。掟を生かして民が死ぬ。それでは本末転倒というものであろう

古川 智映子著 「家康の養女 満天姫の戦い」P187

母として、満天姫が晩年まで悩み抜い母子の姿

幾多の困難にを乗り越えながらも、満天姫が最期まで気にかけたのは、亡父:正之との子”直秀”でした。新しい夫と懸命に生きる満天姫に対し、直秀は福島家を忘れられず、徐々に福島家再興の野望を持つように。津軽藩を危険にさらしたくない母に対して、危険を冒してでも野望を捨てられない直秀。新しい地で困難に見舞われた母子は、どのようにあればよかったのか。哀しくも愛に溢れた母子の絆を深く味わえる作品です。

あとがき

満天姫は一般的には子(直秀)を毒殺したとも言われ、あくどい人物のようにも揶揄されますが、本作の満天姫は多くの困難に前向きに取り組むことで道を拓いていきます。家康死後は大きな後ろ盾がない中で幕府へ申し立てをするなど、正室に収まりきらない行動力と知恵により、津軽の地での自分の居場所を獲得していくのです。
こうした「行動力」は必ずしもプラスに働くとは限りませんが、多くの人の目に留まり心を揺り動かすこともまた事実であると思います。「うまくいくか分からないから黙っていよう」といった誰もが持つ気持ちを揺り動かしてくれる作品です。

舞台や登場人物が関連する作品

✓活躍する女性を描いた物語

①乃南アサ著「チーム・オベリベリ」
時代も舞台も違いますが、明治時代初期に北海道十勝地方開拓に乗り出した「渡辺カネ」を主人公とした作品です。上下2作の長編ですが、満天姫同様に、この地で生きていくしかないという覚悟をプラスに変えていく凛と強い女性を描きます。

②赤神諒 著「妙麟」
戦国時代末期、九州大分県を舞台とした作品です。衰退していく大友家に攻め入る島津軍を16度も撃退し、九州のジャンヌダルクの異名を持つ「吉岡妙麟尼」を描きます。少しフィクションが多めですが、嫁ぎ先の厄介な姑や血のつながらない母子のありかたなど「家康の養女 満天姫の戦い」とも通ずる作品です。

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