
つれづれ(@periodnovels)です。今回は、作品紹介ではなく、読書の楽しみ方として「小説の読み方をご紹介します。
小説を読んで「あ~面白かった!」という経験。
このブログを読んで頂いている読書好きな方は、そうした経験が多いと思います。
ただ、「何が面白いの?」という質問に対して、「ただ面白かった!」以外に具体的に答えるのって難しいですよね。(相手の好みの問題などはさておき…)
今回はそんな方々にこそ読んで頂きたい一冊、「小説の読み方」平野啓一郎著をご紹介します。
小説も同じだ。どうすれば、小説を読んで感動できるようになるのか? 小説の愛し方とは?
平野啓一郎著「小説の読み方」P58
「小説の読み方」はどんな本?
✓概要
葬送・決壊・マチネの終わりになどで有名な「平野啓一郎」氏による、小説の楽しみ方を解説する作品です。本作の前段にあたる「本の読み方」を受けた第二弾の位置づけですが、本作から読んでも全く問題ありません。
✓気軽に読める度:★★★★★
全300ページほどで、以下の2部構成。あまり時間が取れない方は第1部だけでも十分に楽しめる作品です。読み進めるごとに「こういう読み方があるんだ!」と新たな発見・考え方に触れられる作品です。
第1部:「小説を読むための準備」 約60ページ
第2部:「どこを見て、何を語るか」約250ページ
第1部では、小説を読むにあたって「どういった点に注目するべきか」を、
第2部では、11作品を取り上げて「小説をどう楽しむのか」を解説しています。

第2部で取り上げられる11作品はこちら。読んだことのある作品や聞いたことのある作品を中心に読んでみると新たな発見に巡り合いやすいかも。
- ポール・オースター 著 『幽霊たち』
- 綿矢りさ 著 『蹴りたい背中』
- ミルチャ・エリアーデ 著 『若さなき若さ』
- 高橋源一郎 著 『日本文学盛衰史――本当はもっと怖い「半日」』
- 古井由吉 著 『辻――「半日の花」』
- 伊坂幸太郎 著 『ゴールデンスランバー』
- 瀬戸内寂聴 著 『髪――「幻」』
- イアン・マキューアン 著 『アムステルダム』
- 美嘉 著 『恋空』
- フョードル・ドストエフスキー 著 『罪と罰』
- 平野啓一郎 著 『本心』
小説をより深く楽しむために…注目すべきポイントとは?

本作で取り上げられる「小説の読み方」のうち、大きな2つのポイントをご紹介します。(作中の一部のポイントのみです。他にも多くのポイントがありますので、ぜひ作品を読んでみてください。)
ポイント① 小説を4つの質問から考える
ポイント② 大きな矢印と小さな矢印の関係から『究極の述語』を考える
ポイント① 小説を4つの質問から考える
著者:平野啓一郎氏が提唱する小説にアプローチするための4つの質問は以下の通り。
ちなみに、これらの切り口は、ニコラスティンバーゲンという方が動物行動学の基本として挙げた「四つの質問」を、「小説を読む」という行動に置き換えた場合の考え方とのことです。
①メカニズム | 小説の構造や仕組みを分析することで、なぜ面白いかに着目する |
②発達 | 作者の人生において、どのようなタイミングで生まれた作品かを考える |
③機能 | 作者が読者に届けたいメッセージ・体験は何かを考える |
④進化 | 社会・文学の歴史の中で、小説がどのような位置づけにあるかを考える |
①メカニズムは何か物語の書き手よりの切り口で、②発達はより文学・研究者的なアプローチのような印象を受けますね。私自身も含め、純粋に読書をエンターテインメントとして楽しむ読者の方は、「③機能」の観点で読んでいることが多いのではないでしょうか。より深く自分の好きな本を愛するために、これまでとは違った観点から小説を楽しむためのヒントにしてみてください。

私は③機能 ④進化を中心に、たまーに①メカニズムを踏まえた小説紹介を心がけております!(特定の作者の作品だけを読むタイプではないため、②発達はあまり得意でなく…)
ポイント② 大きな矢印と小さな矢印の関係から『究極の述語』を考える
2つ目のポイントは、ある小説を読み終わった時に『この小説は●●だ』の”●●”にあたる『究極の述語』を考えることです。
何かの拍子に作品を手にとった我々読み手は、この作品がどういったものか、つまり『この作品は、●●だ』という『究極の述語』が何か気になることで、本を読み進めていきます。(例えば、この小説は感動的であったという感想を抱いた場合、”感動的”という言葉が、究極の述語にあたります)
こうした『究極の述語』を大きな矢印(主語→述語)とすると、この大きな矢印という枠組みに沿いながら、物語を進んでいきますが、当然、作中には大きな矢印に向かうための小さな矢印(場面や登場人物を進めるもの。例:この主人公は●●だ)が散りばめられています。こうした小さな矢印の一つ一つを味わいながら、最終的に読者は『究極の述語』にたどり着くわけです。
それでは、これらを踏まえてどう小説を楽しむのか。
この先は私自身が読者として楽しむことを意識したものですが、こうした小さな矢印の積み重ねとは、ポイント①で触れた「4つの質問」それぞれの自分なりの答え(=究極の述語)を探しあてる手掛かりであることを踏まえて、小説を読んでみてはいかがでしょうか。
物語に散りばめられた『小さな矢印・手がかり』と『大きな矢印』の関係を意識することで、読み終わった後の読後体験だけに左右されない、新鮮な読書体験を得られるのではないかと思うのです。
まとめ
最後に、著者:平野啓一郎氏は、小説とは何かという問いに、作中でこう著しています。
この広大無辺で、複雑極まりない世の中を、そして、そこに生きる人間の心の奥底を、誰の手のひらにでも収まるほどのコンパクトなサイズに圧縮して、濃密な時間とともに体験させてくれる。それが、小説だ。
平野啓一郎著 「小説の読み方」P23
こうした「小説」というエンターテインメントを、少しでも多くの人が楽しみ、そして楽しみが少しでも広がればよいなと思っています。小説の存在意義・楽しみ方を、これからも発信していきますので、ぜひまたブログをのぞきにきてください。