こんにちは、つれづれ(@periodnovels)です。
「日々のおともに手に汗握るもう一つの人生を」をテーマに、実在した人物をベースとした小説をご紹介しています。
今回ご紹介する小説は、篠 綾子 著「花と舞と 一人静」
描かれる人物は、「静御前(生没年不詳)」
本作を一言にまとめると…
恋か芸か―。日の本一の白拍子が選んだ道とは
舞を捨ててもよいと思えるほどのお方が、私の舞を認めてくださるからこそ、私は決して舞を捨てない。
篠綾子著「花と舞と 一人静」P273
「空の声」はどんな本?
✓あらすじ
時代:平安時代末期~鎌倉時代初期
舞台:京都
平安時代末期、平清盛によって興隆した平家の滅亡とともに、源頼朝による武家政権へと突き進む時代に、日本一の白拍子(歌・舞を演ずる職業)であり、源義経の愛妾であった静御前の生涯を描きます。白拍子を辞めた母への怒り、義経との悲恋、何より白拍子としての誇り。時代に振り回されながらも、凛々しく自分の生き方を貫いた静御前の生涯とは。
✓気軽に読める度:★★★★☆
文庫版300ページ強、主要な登場人物も絞られているうえに、舞のシーンも読みやすい表現が多く、とても読みやすい作品です。特に心情の機微がとても繊細かつ丁寧に描き出されており、登場人物の心の揺れ動きがとても胸に響きます。
「静御前」はこんな人
時代に振り回されながらも、舞という仕事と切なく儚い恋を糧に自分らしく生きた女性です。
※注:作中で取り上げられる人物像も含みます。

静御前の生涯は生没年すら不詳と謎に満ちています。判明しているのは、磯野禅師という「白拍子の祖」と呼ばれる人物を母に持ち、自身も白拍子という歌・舞を演ずる職業に就いた人物ということ。
伝承の中で、静御前が一番最初に登場するのは、13歳にして呼ばれた後白河法皇による神泉苑での雨乞いの儀式。「花と舞と 一人静」も、この雨乞いの儀式から物語は始まります。
歴史上はほとんど記録がなく、次の登場は都を落ちていく源義経に途中まで連れ添ったところ。義経の愛妾として、その名を知られていながら、義経との出会いも定かではないようです。これほど記録がない人物を著者の篠綾子氏は、芸にも恋にも真っすぐに邁進した一人の自立した女性として描きます。
おすすめポイント・読書体験
✓一人の女性として、己の意志で生きてゆく静御前
日本一の白拍子と称された静御前は、自身の舞をさらに磨くべく、一心不乱に稽古を続けます。それは、白拍子の祖と呼ばれながらも舞を引退した母への当てつけにも似た感情から来るものでした。そんな母から静御前はこのように言われます。
まことに恋しい人ができたら、お前にも分かるわ。お前もきっと悩むことになるでしょう。その方のために、舞を捨てられるかどうかと
篠綾子著「花と舞と一人静」P108
まだ、まことの恋には出会ってない。そう言われた静御前は「まことの恋をして、かつ舞も諦めない」と心に誓います。今でいう恋愛か仕事か、二者択一を迫られているような感覚でしょうか。
やがて彼女に訪れた”まことに恋しい人 源義経”。彼との短い恋の中で、様々な試練が静御前の身に降りかかります。時に深い悲しみに沈み、時に慟哭する静御前。しかし、彼女は母や妹弟子・義経の正妻と助けあい、そして何より『舞』という仕事を心の支えとすることで、自分の生きる道を自分で選んで生きていきます。
普遍的なテーマでもある恋愛と仕事。どちらかを諦めるのではなく、どちらも糧としながら自分の意志で道を選んでゆく静御前の姿を応援し、そして読者も励まされる。そんな作品です。
あとがき
恋愛と仕事―。現代でも普遍的なテーマを題材とする一方、幻想的な舞、美しい自然、繊細に描かれる登場人物の心情など、作品全体として美しさが際立つ作品でもあります。
醜い権力争いが繰り広げられた時代と対比するかのように、美しく生きようとした人たちの生き方を描き、今の我々の生き方を静かに問いかけてくる作品です。