学びを生かし続けた凡庸な天下人 |「家康が最も恐れた男たち」吉川永青 著

歴史小説

こんにちは、つれづれ(@periodnovels)です。
このブログは「日々のおともに手に汗握るもう一つの人生を」をテーマに、実在した人物をベースとした小説をご紹介しています。

今回ご紹介する小説は、「家康が最も恐れた男たち」吉川永青 著
描かれる人物は、「徳川家康(1543ー1616)

本作を一言にまとめると…

学びを生かし続けた凡庸な天下人

非才ゆえに人を恐れ、恐れたからこそ生き延びた。生き続けた末に、世の頂という座に就いた。全ては、常に懸命だったからだ。自らの生を慈しんできたがゆえなのである。

吉川永青「家康が最も恐れた男たち」P381

「家康が最も恐れた男たち」はどんな本?

✓あらすじ
戦国の世を駆け抜けて将軍の座に就いた、臆病者「徳川家康」。彼が天下を取るまでに戦国の世で出会い”最も恐れた”8人の武将たちは、家康にどのような教訓をもたらしたのか。徳川家康が天下を統一するまでを家康の視点で追う歴史小説です。

✓舞台
戦国時代ど真ん中の1572年~1616年が舞台です。地名としての舞台は様々ですが、家康の最初の本拠地 岡崎(現:愛知県岡崎市)をはじめ、天正壬午の乱で描かれる山梨・長野、当時の都である京都、江戸など、多くの舞台が描かれます。ただ、人と人のやり取りがメインのため、臆病者「徳川家康」の心情に迫る表現の多彩さが光る作品です。

✓気軽に読める度:★★★★★
50ページ×8作の短編が時系列で連なっている作品のため、歴史小説としては非常に読みやすい作品です。また、後述の通り、歴史小説だけでなく、推理小説・自己啓発本のような楽しみ方もできるため、歴史小説が初めての方から読み慣れている方まで幅広く楽しめます。一方、舞台となる地が転々とするため、旧国名(加賀・三河・尾張など)が多く出てくる点は少し分かり辛いかもしれません。

「徳川家康」はこんな人

徳川家康は、言わずと知れた戦国時代を終わらせ、江戸太平の世の礎を築いた人物です。

徳川家康

徳川家康は1543年に三河で生まれるも、幼くして織田信秀(織田信長のお父ちゃん)や今川義元(桶狭間の戦いで織田信長に敗れた武将)の元で、人質として青年までを過ごします。彼の人生の転機が訪れたのは、”桶狭間の戦い(1560年)”。従属させられていた今川義元が敗れたことで徳川家康は独立。戦国大名としての道を歩み始めます。

本作は、徳川家康が独立してから約10年後にあたる「三方ヶ原の戦い」から描かれます。この戦いでは武田信玄から薫陶を受けますが、家康の武将人生の初期は散々たるものでした。

同盟先の織田信長には家に妻子を殺させられ、真田正幸には煮え湯を呑まされ、豊臣秀吉に屈服させられ…。その後も様々な才ある人物たちが徳川家康の天下人への道を阻みます。

こうした”才ある戦国武将たちから、”才のない”徳川家康は何を学びとり、天下を握ったのでしょうか。

おすすめポイント・読書体験

家康が8人の武将から学んだものとは?推理小説と自己啓発本を合わせたかのような面白さ

本作は8作の短編からなる作品ですが、短編1作ごとに1名の才ある武将を取り上げて、才のない徳川家康が1つの教訓を学ぶ形となっています。ちなみに、徳川家康が恐れた8名に武将たちは以下の通り。

  • 武田信玄(若き徳川家康の最大の敵)
  • 織田信長(同盟国ながら家康が最も気を遣った天下人)
  • 真田昌幸(真田幸村の父、小国で大国を翻弄した男)
  • 豊臣秀吉(いわずと知れた日本で最も出世した男)
  • 前田利家(傾奇者で加賀百万石の祖)
  • 石田三成(秀吉の軍略を支えた天才官僚)
  • 黒田如水(黒田官兵衛/秀吉を支えた天才軍師)
  • 真田信繁(真田幸村/真田十勇士の主君)

例えば、真田昌幸からは「心は心、策は策」と、今でいうアンガーマネジメントを学び、続く豊臣秀吉の章ではこの経験を活かした判断をしていきます。このように1つ学びを得ては、生かし、応用し、時に反省しながら人生を歩んでいく、家康の苦難のサクセスストーリーが描かれます。

1章ごとの学びは何かを推理しながら、1つの章を読み終えるごとに読者自身の生活も振り返させられる。推理小説と自己啓発本をくるめた歴史小説のような…、そんな稀有な読書体験を味わえる作品です。

あとがき

昨今、世間では「リスキング」が叫ばれています。変化が激しい時代だからこそ学び直そうという考え方ですが、乱世を生き抜いた徳川家康にとっては当たり前のことだったのかもしれません。

”学び続けた苦労人”徳川家康の生き様が、家康が恐れた8名の武将の生き様と共に、人生の教訓として身に染みる作品です。

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