幾多の困難を乗り越えた九州のジャンヌダルク|「妙麟」赤神諒 著

歴史小説

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こんにちは、つれづれ(@periodnovels)です。このブログでは、実在した人物や出来事を題材にした紹介を紹介しています。

今回は、赤神諒 著「妙麟」
描かれる人物は、戦国時代末期に衰退する大友家で島津軍を何度も撃退した「吉岡妙林尼(生没年不詳)」。
本作のテーマを一言で言うと…

真っ直ぐな”恋”と温かい”愛”が変えた2つの人生

(敗走する島津軍に対して)
されば逃げ帰って、震える主にわが名を告げよ。鶴崎で島津を破りしは、林左京亮が娘、妙林である

赤神諒「妙麟」P383

十六度も島津軍を撃退しながら、鶴崎城攻防戦でしか歴史に名を残さない吉岡妙林のミステリアスな生涯を、大友サーガで知られる著者の赤神諒が、臨場感たっぷりの筆致で描き出します。

おすすめポイントの前に…少しだけあらすじを

本作は大きく分けると、臼杵右京亮との恋仲を描く第1部、吉岡氏へ嫁入り後の嫁姑争いを描く第2部、大友家内の内紛・混乱の第3部、鶴崎城攻防戦の第4部となっています。恋に破れながらも嫁姑争いに果敢に立ち向かい、夫を喪いながらも戦に立ち向かっていく妙林は、なぜここまで強く在れたのか。

実は、吉岡妙林尼は鶴崎城籠城戦以外に史料が残っておらず、生没年どころか本名・両親すらも分かっていません。そのため、同時代の事件・出来事・人間関係などから物語は構築されており、9割方がフィクションとのこと。あらかじめご留意を。(そもそも歴史小説で100%ノンフィクションということはないのですが、その辺りは別の記事でまとめたいと思います。)

こんなかたにおすすめ

本作は戦国時代後期の九州北部(現在の大分県大分市)を舞台としていますが、史実を軸に据えつつも、フィクションが多くちりばめられ、テレビドラマのようなドラマチックな展開なため、歴史小説に馴染みがないかたにとって非常に読みやすく楽しめる作品です。また、鶴崎では石像があるほど有名のようですので、ぜひこの「鶴崎」にご縁のある方も楽しめると思います。
一方で、ほとんど小説や物語にならない人物のため、歴史マニアのかたも気になるとは思いますが、フィクションが多いため、本格的歴史小説を期待しているかたのは馴染みにくい作品です。

おすすめポイント・読みどころ

真っ直ぐな妙林により変わってゆく臼杵右京亮

臼杵右京亮は妙林と恋仲になる人物ですが、彼には暗い野望があります。それは、大友の家を混乱と内戦に巻き込み、その中で成り上がっていくこと。そんな野望を心に秘める右京亮でしたが、あまりにも”恋”に真っ直ぐな妙林と出会うことで心が揺らいでいきます。

右京亮は自分の心を完全に支配しようとしてきた。が、妙はまるで逆のようだった。己が心のおもむくまま、なりふり構わず行動する、奔放不羈の少女といってよかった。

赤神諒「妙麟」P138

真っ直ぐな妙林の”恋”は、どのようにして固く凍った右京亮の心をほぐしたのか、甘酸っぱい青春時代を思い出しながら楽しめます。

妙林が譲れなかった意地

恋仲であった右京亮との恋が破れたあと、妙林は夫である吉岡鎮興の愛に触れることで、妙林の心持ちは少女から家を支える妻、そして母へ変化していきます。そんな中で訪れた最愛の夫の戦死。同時にかつて恋仲であった右京亮も同じ戦いで戦死します。

迫る島津軍に対して城内は老兵や女子供ばかり。周りの城ですら島津軍に降る中、妙林は、なぜ戦うことを選んだのか。今なお語り継がれる鶴崎城籠城戦の核心が紐解かれます。

薩州勢と戦って死んだところで、妙を、大友を守ろうとして散っていった男たちは、浮かばれまい。妙は、勝ち続けねばならないのだ。

赤神諒「妙麟」P354

あとがき

鶴崎城籠城戦で名をはせた後、ぱったりと歴史から名を消した吉岡妙林尼。そんな知られざる人物に光をあてた本作は、ただ過去の人物を偉大であったと称えるだけでなく、血の通う人間であったことを改めて気づかせてくれます。
また、本作が面白い!と思われた方は、同様の作風で「空貝 村上水軍の神姫」という作品もおすすめです。和田竜 著「村上水軍の娘」の主人公・景があこがれた”鶴姫”を描く作品です。こちらもぜひ読んでみてください。

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