
こんにちは、つれづれ(@periodnovels)です。「日々のおともに手に汗握るもう一つの人生を」をテーマに、実在した人物・出来事をベースとした小説をご紹介しています。
今回ご紹介する小説は、佐々木功著「たらしの城」
描かれる人物は、後に豊臣秀吉と呼ばれる若き日の「木下藤吉郎」。
※本記事では、作中の雰囲気を残すため「木下藤吉郎」で表記します。
この物語は、猿――木下藤吉郎という一風変わったお調子者、この世の底辺の淀みから湧いてでて、のち、天下人となり上がる男の若き日の築城譚である。
佐々木功著「たらしの城」P193
「たらしの城」はどんな本?
✓あらすじ
時代:戦国時代後期(1561年)
日本で最もなり上がった男、豊臣秀吉(木下藤吉郎)がその名を轟かせた「墨俣一夜城」を描く。木下藤吉郎が持つ「天性の人たらし」と「きらめく才覚」が、弟の小一郎・荒くれ者ばかりの川筋衆・プライドの高い織田家臣・気難しい信長の心をも動かして、敵地:墨俣に城を築いてゆく。後の天下人、されどまだ何者でもない秀吉の若き日の情熱を描く作品です。
✓気軽に読める度:★★★★★
単行本300ページと分量はちょうどよいうえに、基本的に「猿」こと木下藤吉郎の目線で物語が進むため、非常に読みやすい作品です。時間軸は墨俣築城までの約半年ほどを描くこともあり、テンポよく進む物語に、どんどんと引き込まれます。また、敵地に一夜で築かれたとされる「墨俣一夜城」の史実とは…?に迫るラストは必見です。
木下藤吉郎(豊臣秀吉)はどんな人
誰よりも知恵を絞り、誰よりも行動し、誰よりも上を見続けた人物
※注:作中で取り上げられる人物像も含みます。

木下藤吉郎(豊臣秀吉)は、尾張国愛知郡中村郷中中村(現:名古屋市中村区)の足軽ないしはさらに下級の階層に生まれます(諸説あり)。通説によれば、実父が亡くなった後、継父と反りが合わず、15歳にして家を出ます。その後、針売り・今川家臣 松下之綱の家臣などを経て、17-18歳ごろから織田信長に仕官。台所奉行などいわゆる事務方・裏方にて成果を上げることで頭角を現し始めます。
その後5-6年を経て、生涯の伴侶である「寧々(ねね/北政所)」と婚姻。
「たらしの城」の物語はここから始まります。
鳴かぬなら 鳴かせてみよう ホトトギス。後年、人たらしの天才とも呼ばれる木下藤吉郎は、本作で描かれる「墨俣一夜城」にて、その名を轟かせ、出生街道を突き進んでいきます。
それから20年後。織田の宿老となり、本能寺の変後の政争を勝ち抜いた木下藤吉郎は、豊臣秀吉と名を変え、ついに天下を統一。戦国時代の始まりともされる応仁の乱から113年。荒れに荒れた日本を武力で再統一し、一時は戦乱の世を終わらせた人物こそが、紛れもないこの木下藤吉郎なのです。
しかし、「たらしの城」で描かれる木下藤吉郎は、まだ配下もほとんど持たず何者でもない20代のひとりの若者でしかありません。何も持たない木下藤吉郎は、どのように知恵を絞り、体を張り、出世の糸口をつかんだのか。
おすすめポイント・読書体験

「たらしの城」のおすすめポイント・読書体験をご紹介します!
木下藤吉郎流 出世街道の上り方
木下藤吉郎流 出世街道の上り方
下級階層の出身である木下藤吉郎は当たり前ですが、言葉通り何も持っていません。金や家臣がないのは当たり前、それどころか、強いな体も無ければ武術もからっきし。
そんな彼がやろうとしたのは、織田の宿老たちすらできなかった「敵地:墨俣に城を作る」こと。(そもそも並大抵の人では、こんな案すら出てこないものですが…。)
城を作るために何をすればいいのか…。
そう、何も持たない藤吉郎には、とにかく“考える”しかなかったのです。そして、その考えを”行動”に移し、また考えては行動し、というサイクルをひたすら積み重ねていきます。非常に単純ですが、これこそが木下藤吉郎流の出世街道の上り方であるわけです。
しかし、そんな藤吉郎にも思考が止まり、八方ふさがりになってしまうことも。そんな壁を藤吉郎はどのように乗り越えたのか。藤吉郎の次の一手を期待し、”考える” ことの楽しさを感じる作品です。
考えろ、考えろ。何かを変えなければならない。何をすればいい。すること、できることが、あるはずだ。生きているなら、活路を探せ。絶対、だめ、ということもないだろう。
佐々木功著「たらしの城」P77
また、本作で藤吉郎の活躍を直属の上司目線で語る「村井貞勝」という人物がいます。武ではなく吏僚・官僚として力を発揮した人物で、信長が京を掌握した折には「京都所司代」という役職に就く人物です。そんな貞勝が藤吉郎の才能・活躍を一言で語っています。
貞勝にとって、猿(木下藤吉郎)は極めて有用な部下であった。まず、仕事ができる。それだけではない。他の者と違うのは、猿は己で己の役の改善、向上ができるのだ。
佐々木功著「たらしの城」P142
ジョブ型・成果主義へと変わりゆく現代。「そうは言われても何をすればよいのか…」と迷う人にとって、一つの道しるべになるような気がします。
あとがき
木下藤吉郎、後の豊臣秀吉と言えば、思いつくのはやはり「人たらし」。本作でも、この才能は、彼の立身出世に大いに役立ちます。
では、この「人たらし」は何から生まれたのか。それは、藤吉郎が「何も持たない人物」であったからだと思います。当時の侍たちは頭を下げることができないプライドの高い生き物。対して、何も持たない藤吉郎は、気軽に頭を下げ、誰かれなく仲間となることで味方を増やしたのです。
弟、小一郎はそう思っている。そんな風に人に近づき、警戒を解いてしまう。上も下も、その容姿とひょうげっぷりに、つい心を許す、それが兄の天性の技なのだ。
佐々木功著「たらしの城」P11
どうしても、プライド・メンツに囚われてしまうものですが、こうした姿勢は自分の成長を止めてしまうものに他ならないのかもしれません。改めて考えることの楽しさを感じ、若き情熱を取り戻せる作品です。
ちなみに、本作の著者:佐々木功は、同じく織田信長を草創期から支えた織田一の男 丹羽長秀を描いた作品「織田一 丹羽五郎左長秀の記」も執筆されています。織田信長の死後、天下統一へ邁進する羽柴秀吉(木下藤吉郎)と行動を共にした丹羽長秀を描き、読了後は、こんな上司の元で働きたい!と思わずにいられない作品です。ブログでも紹介していますので、よろしければご一読ください。